3月15日夕、JR尻手駅(川崎市幸区)前。友人宅に向かっていた東京都板橋区の日本大学4年、阪部全(たもつ)さん(23)は1人の小柄な高齢女性に目がとまった。
オカネ……。スピーカー機能にしたスマホから流れたボイスチェンジャーを使ったような機械音のような声。女性は片手にスマホ、もう片方の手に紙袋を持ち、周囲をキョロキョロ。駅前から人の少ない住宅街に誘導されているようだった。
ネットニュースで見た特殊詐欺の記事を思い出した。
「ちょっとやばい。遅れる」
阪部さんは友人に連絡を入れ、その後、「助けてあげて。早く来て」と110番通報。約200メートルにわたって後ろから女性を見守った。
10分後、駆けつけた鶴見署員が女性を保護した。女性は一人暮らしの70代で、不倫相手を妊娠させたという長男を助けようと、座間市から電車を乗り継ぎ、指定された尻手駅に来たという。紙袋に現金150万円を入れ、「弁護士のおい」をかたる男に会う予定だった。署は近くに現金の受け取り役がおり、間一髪で被害を阻止したとみている。
29日、阪部さんに鶴見署から感謝状が手渡された。中西実署長は「ひらめいたように110番通報してくれた。非常にありがたい」とたたえた。夕方の駅前は人通りも多いが、高齢女性の異変に気づき、行動したのは阪部さんだけだった。小さいころから「おばあちゃん子」で、自然と目がとまったという。「たまたま勘がよかっただけ。被害を防げてよかった」と阪部さんは振り返った。
神奈川県内では昨年、特殊詐欺の被害額は約45億7千万円に上った。阻止件数は1768件で、コンビニや金融機関の窓口での阻止が7割を占める。他は家族や知人などが多く、阪部さんのようなケースは珍しいという。(村上潤治)